介護現場で働いていると事故になりそうな場面に遭遇することがあるはずです(・ω・)
トランスの際に転倒しそうだったとか、少し目を離したすきに誤嚥が起きてしまったとか、ケアプランの内容を間違えてしまい介護保険内で料金が収まらなくなってしまったなどなど、業務上いろいろと起こりうると思います。
ヒヤリとしたりハッとしたり、という状況を「ヒヤリハット」って言ったりするんですが、介護でもよく利用する用語です。聞いたことある人もいるんじゃないでしょうか?
このヒヤリハット、事前に対処できたり気づいて防止できればいいのですが、最悪の場合事故に繋がってしまいます。
事故が起きてしまったら示談で済めばいいですが、訴訟に繋がってしまう可能性がありますね?
「え、損害賠償責任に問われたら賠償金を支払わないといけないんですか?!従業員でも???じゃあ個人でも損害賠償保険に入っておいた方が安心?!??」
こんな質問を受けることがたまにあります(・ω・)
どうもこんにちは。ペペロンをチーノするマンです(・∀・)ノ
今回は数は決して多くないのですが、起きてしまう可能性が0とは言えないこの訴訟や損害賠償のお話。
今回はそんな損害賠償責任について、個人でも保険に入っておいた方が安心なの?という質問についてお話しさせて頂きます(・∀・)ノ
そもそも損害賠償保険とは?
損害賠償とは他人を死傷させてしまったり他人の所有物を破損させてしまうなどして損失を与えてしまった場合にそれを金銭的に補償することです。
そして偶発的に発生してしまった事故の損害賠償の責任に対して保障をするのが損害賠償保険です!
介護の業務で言えば
- トランスの時にめまいがしてしまい転倒、利用者にケガを負わせてしまった
- 清掃の際に床を拭き忘れ湿っていたため、そこを通った利用者がケガをしてしまった
- 利用者の持ち物に服が引っかかってしまい、落下させ壊してしまった
- ケアプランの内容を間違えてしまい、介護保険の中でサービスの料金が収まらず利用者に別途お金を負担させてしまった
などが該当します。これにより利用者に不利益を与えてしまった場合、保障が下りる保険ですね(゚-゚)
場合によっては死亡事故につながってしまうケースだってあります。しかし、業務上発生しないと言い切れない内容ですよね?
そうなんです。
損害賠償はいつ発生してもおかしくないんですが、非常に大きなお金を支払わないといけない可能性があるから危険なんです。
なので損害賠償保険にはニーズがあるんですね。
損害賠償に関わる介護現場での実際の過去の判例
では、具体的にに損害賠償責任が発生してしまったという過去の裁判の判決をいくつか見てみましょう(・ω・)
以下の裁判の判例については独立行政法人 福祉医療機構が運営するWAM NETより引用します。
ケース1 誤嚥による死亡事故と賠償責任
事案の概要
男性Aさんは、パーキンソン症候群、多発性脳血栓のほか、認知症の診断を受けていた。Aさんは医療法人Yとの間で施設介護サービス利用契約を締結し入所した。
Aさんは、平成16年11月3日、施設Bから昼食として提供された刺身を誤嚥して窒息し、心肺停止状態となり、隣接するY経営の病院で蘇生治療を受けたものの、意識が回復しないまま平成17年3月17日心不全により死亡。
Aさんの遺族であるXら3名から医療法人Yに対し、損害賠償を求めたのが本件である。
判決(分かりやすいように簡略化します)
Aさんの嚥下状態は良好とは到底評価し難い状態であったもので、その間Aさんには誤嚥の危険性があったと認められる。
そして、介護老人保健施設という専門機関で、継続的にAさんの介護にあたっていた医師Cを含む他の職員たちはこれを認識していたか又は少なくとも容易に認識できたと認められる。
医療法人Aに提供された刺身の大きさは、健常人が食べるのとそれほど異ならない大きさであった。
施設Bは嚥下しやすくするための工夫を特段講じたとは本件証拠上認められない。
以上のことなどから、施設BがAさんに対し刺身を常食で提供したことについて、介護契約上の安全配慮義務違反、過失が認められる。
裁判所は以上のように判示し、遺族のXら3名に対する各734万円余の賠償を医療法人Yに命じた。
ケース2 訪問介護の際の転倒事故と賠償責任
事案の概要
女性Cさんは腎不全のため入院し、透析に必要な人工血管を体内に埋め込む手術を受けて約5カ月間入院した後、退院した。
同日、Cさんは株式会社Yとの間で、訪問介護契約(本件契約)を締結。
株式会社Yの被用者である介護士Bは別の日に、Cさんに対し人工透析のために自宅と医院との間を送迎する通院介助サービスを提供した。
Cさんはその際、自立歩行し上がりかまち(玄関土間からの高さ約24cm)の上で立位のまま靴を履いた。
その時介護士Bは、玄関前に置かれたCさんを載せる車椅子が所定の位置とは異なる場所にあることに気づき、車いすを移動させるため、Cさんに対し、そのままの体勢で待つように指示して玄関の外に出た。
Cさんは、介護士Bが玄関の外で車いすを移動させている間に転倒し、玄関土間に転落した(本件事故)。
Cさんは、本件事故により左大腿骨頸部内側骨折の傷害を負った。
以上の事実関係の下、Cさんの相続人であるXから株式会社Yに対し、債務不履行に基づく損害賠償の支払いを求めて訴えに及んだ。
判決(分かりやすいように簡略化します)
介護士Bは、本件契約に基づく安全配慮義務の一内容として、上がりかまちに立っているCさんから目を離す際には、Cさんを一旦上がりかまちに座らせたりするなど、Cさんが転倒することを防ぐために必要な措置を執る義務を負っていたものというべきである。
それにもかかわらず、介護士Bは、Cさんを上がりかまちに立たせたまま玄関の外に出てCさんから目を離し、何らCさんの転倒を防ぐ措置を講じなかったのであるから、株式会社Yには本件契約に基づく安全配慮義務違反があるというべきである。
以上のように判示し、株式会社Yに対する入院付添費・入院雑費・入院慰謝料・後遺障害慰謝料・弁護士費用として1726 万円余の請求を認容した。
(東京地裁平成25年10月25日判決〔判例集未登載。LEX/DB文献番号25515600〕)
判例から見えてくること
今回は身近で起きそうな2つのケースをピックアップしてみましたが何かお気づきになることはありませんか?
そう、どちらも所属している会社が損害賠償責任を負っており、従業員本人が損害賠償請求の対象にはなっておりません。
これはいったいどういう事なんでしょうか(゚Д゚)?
損害賠償請求とは
まず、従業員が事故を起こしたので当然損害賠償も本来は従業員に対して請求されます。
これは当然です。
しかし、従業員個人では支払える損害賠償金額は少額になってしまいます。一個人で数百万・数千万円も払える筈はありませんからね。
そこで被害者側は従業員を雇用している雇用側に対して損害賠償責任を問うのです。
これが介護現場で事故が起きた時のスタンダードな流れですね。
なぜ雇用側が損害賠償の責任を負うのか
法律には報償責任の法理というものがあり、民法715条の使用者責任はそれに基づいた内容になっている。
簡単に説明すると
【従業員を使役することにより利益を得ているのであれば、損害のみ従業員の責任にするのは公平ではない。その責任は雇用側も負う必要がある】という考え方(・ω・)
この法律があるため被害者側は支払い余力の大きい事業所側へ訴訟を起こすわけですね。
では従業員は一切損害賠償責任を負わないのか?
一概にそうとは言えません。
過失などの内容によっては従業員も相当額を負担しないといけません。
更に故意的であったり悪質だったりする場合は、事業所がその責任を負わないで良いケースもあります。
ただ、故意にそういった事故を起こす人はこのお話を聞いている人の中にはいないと思っています(笑)
結局、保険には入っておいた方がいいの?
普通に業務を行っていれば事業所から損害賠償請求されることは稀です。
わざわざ訴訟を起こして「少しでも賠償金を負担させたい…」という事業所よりも、今後長く働いてくれてサービスを提供してくれる方が利益になると分かっている事業所がほとんどだと思います。笑
訴訟なんて起こしても泥沼ですし、事業所側からすれば戻ってくる金額もたかが知れていますからね。
なので個人的には保険に加入する必要は無いと考えています。
しかし、従業員からすると事故について100%の予防はできません(゚Д゚)
だから不安という人もたくさんいると思います。
どうしても不安だという方は損害賠償保険に加入したほうが良いかもしれないですね。
ちなみに個人用の損害賠償保険は月々250円~300円で加入することが出来ます!
掛け捨てではありますが、お弁当よりも安い金額で安心を購入できるなら検討しても良いかもしれません。
しかし!!
絶対に余計なオプションを付けないでください!!
医療保険特約やなんたらかんたらというオプションを付けてしまうと月額掛け金がどんどんどんどん上がっていき保険地獄です…
最低限の損害賠償の部分の保障だけに絞って加入をしてください。それだけで十分なはずです!
ちなみに、株式会社 全福サービスやメディカル少額短期保険株式会社なんかで介護用の損害賠償保険が販売されているので気になる方は調べてみてください(・ω・)
まとめ
本日もお疲れ様でございました。
今回は分かりにくい法律の説明を交えながら(笑)
現場で起こりうる事故と損害賠償責任、さらに介護士は個人で賠償責任保険に入るべきかどうかについてお話しさせて頂きました(・ω・)
事故が発生してしまってから「あれっ、私このままどうなるんだろ…」という不安な気持ちにならない為にもこういった知識は保有しておいた方が良いかもしれません!
あと、個人的な経験でお話しすると、
「損害賠償金を払った」という介護士さんに出会ったことがないです(゚-゚)
なので本当にそういったケースは稀です。
いざという時にために知識として知っていて頂きたいですが、これを聞いて不安になり過ぎてしまわないようにしてほしいです(笑)
それではまた(・∀・)ノ